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ホント? 床屋で血圧下がる? [医学・医療短信]

床屋で血圧は下がるのか?
 慶應義塾大学循環器内科 香坂 俊

 研究の背景:血圧のコントロールは悪くなっている?

  高血圧にはパラドックスが存在する。

 過去50年の間で高血圧の病態に対する理解は深まり、さらに処方できる薬剤も増えている。

 が、なぜか患者さんの数は年々増えており(!)、そして個々の患者さんの血圧のコントロールも悪くなっている(!!)。

  このパラドックスは、早期発見バイアスによって説明できるとする向きもあるが、米国での推計によると、高血圧患者のうち28%はそれと認識しておらず、認識していたとしても39%が治療を受けておらず、治療を受けていたとしても65%が140/90mmHg以下にコントロールできていない、などと報告されている(Hypertension 2008; 52: 818-827)。


「Hypertension(高血圧)」=高血圧に関する研究を紹介するAHA(American Heart Association アメリカ心臓協会)の学会誌。血圧の調整,病態生理学,臨床での治療,高血圧の予防など広範囲にわたる質の高い調査報告を掲載する,本分野のトップジャーナル。

 なので、単純に降圧薬の種類が増えたからといって高血圧の問題を解決できたと考えるのは(全くもって)早計であり、さまざまな方面から高血圧に対する対策は練り続ける必要があると考えられている。

 研究のデザイン:床屋さんでできることはないか?

  ここに今年(2018年)4月、従来とは全く異なるアプローチで血圧コントロールに挑戦した研究グループがその成果をNEJM誌に発表した(N Engl J Med 2018)。

 N Engl J Med=The New England Journal of Medicine(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)は、マサチューセッツ内科外科学会によって発行される、英語で書かれた査読制の医学雑誌。継続して発行されている医学雑誌のうちでは世界で最も長い歴史を誇り、また世界で最も広く読まれ、最もよく引用され、最も影響を与えている一般的な医学系定期刊行物となっている。

 一言で言うと「血圧の管理を床屋に持ち込んだ」ということになるのだが、パンフレットを配布するという単純な啓発活動を行ったということでもなく、医師を常駐させたというようなことでもない。

 同じ研究グループが数年前に「単純な啓発活動」では血圧のコントロールは全く改善しないということを示しており、さらに医師を引っ張り出しても医療費がかさむばかりである(米国の医師は高い!)。

 こうした前提の中で、今回取られたアプローチというのは下記のようなものである:

 ① 52店の理髪店を、薬剤師主導の現場介入群と対照群のいずれかに割り付けた

 ② 介入群では、理髪師が常連客に対し(専門のトレーニングを受けた)薬剤師と店内で会うことを促した

 ③ 薬剤師はその常連客の担当医と相談しながら(あるいはあらかじめ決められたプロトコルに沿って)降圧薬を直接処方することができた

 ④ 対照群でもそのまま放っておくということはせず、血圧を必ず測定し、その結果次第では理髪師が生活習慣の改善および医師の診察の予約を促す、ということが行われた

 研究の結果:介入群で「3倍」の血圧低下

 各理髪店の常連客で高血圧〔収縮期高血圧(SBP) 140mmHg以上〕を有する319人の方がこの研究に参加した。

 その後6カ月で、薬剤師介入群の平均SBPは27.0mmHg低下した(対照群でもSBPは低下したが9.3mmHgの低下にとどまった)。

 これはもちろん統計的に有意な差である(P<0.001)。なお、介入群の63.6%で130/80mmHg未満という目標が達成されたが、対照群では11.7%であった(P<0.001)。

  この話にはまだ先がある。今回の研究の参加者というのは、40%が年収250万円以下の世帯に属しており、ほとんどの人が肥満で、1/3が喫煙しているという通常はランダム化比較試験(RCT)に参加しないか、あるいは参加しても非常にコンプライアンス(≒プロトコル遵守)が悪い患者群を対象としていた。

 にもかかわらず、である。研究期間の6か月を通してのプロトコル遵守率は95%を達成した。

 私はこう考える①:新たな医療モデルの提案

 これまでにも類似のデザインの研究は行われてきた。

 しかし繰り返しになるが、本研究の対照群で用いられたような単純な啓発活動(血圧を測って医院や病院に行くことを促す)だけでは、なかなか実のある改善は見られなかった。

 もう一度振り返ってみよう。今回の研究の介入は、

• 常連客に対して理髪店で血圧の測定が行われた

• 理髪師が店内で薬剤師を紹介した

• 薬剤師がその場で(理髪店で)血圧を管理した

 というものである。

 常連客にとって、行きつけの理髪店は信頼できる場所であり、店主は信頼できる人物である。

 さらに、薬剤師が理髪店に常駐しており、担当医師と「相談」はするものの、直接薬剤を処方し、変更することができる。

  お気付きいただけただろうか?

  このループの中にはその地域の信頼できる人や場所が含まれていて、そこに薬剤師が入っていったというものであり、医師による直接介入は入っていない。

 これまで医療の提供は、当たり前ではあるが、医院や病院で行われてきた。

 極論かもしれないが、医師は患者さんが来るのを待っていればそれでよかった。

 今回示されたのは、単に「床屋に行ったら血圧がよくなった」ということではなく、医師を直接介さない新しい医療提供モデルが(受け身の)従来型のモデルよりも有効であるということなのではないかと考えられる。

 その地域あるいは社会の中で信頼されている人物(この研究では床屋さん)にアドバイスを送ってもらい、すかさず医師でない医療関係者(この研究では薬剤師)がプロフェッショナルな介入を行うというモデルはさまざまな慢性疾患に応用できる可能性を秘めている。

 私はこう考える②:今後の医療提供はどのように?

 患者が来るのを待つばかりではなく、いつも患者がいる場所で患者に会うことが「より有効」な医療介入の手段になるということが示されたが、ここにはさまざまな課題も存在する。

 誰が非医療者のトレーニングを行い、誰が薬剤師の介入に対する支払いを行い、そして誰が最終的な責任を取るのか?

  ただ、従来型の医療の提供が限界に来ていることは日々入ってくるニュースからも明らかであり、わが国ではそこに人工知能(AI)を介入させたり、あるいは遠隔医療の仕組みを整えて乗り切る方向に舵を切っている(ように筆者には思える)。

  しかし、今回の研究の結果を見てみると、医療提供のあるべき姿というのは、意外と身近なところに存在するのではないかと気付かされる。

 自分としては、従来からの医療の「枠」を広げることで、より良い医療を提供し、さらに医師側の負担を軽減することができる、ということなのであれば積極的にその可能性を探索していってもよいように思われる。

「MedicalTribune 」による
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