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奇想天外! ?  糖尿病・肥満の新治療 [医学・医療短信]

「十二指腸-空腸バイパスライナー」のメタ解析
 山田 悟 北里研究所病院 糖尿病センター長。

研究の背景:十二指腸粘膜焼灼術は治療効果が減退

 以前、内視鏡下で十二指腸粘膜を焼灼することにより糖尿病や肥満の改善効果が得られたという試験を紹介した。

 しかし、この治療法では、焼灼された粘膜が自然治癒する過程の中で徐々に機能も復活し、おのずとリバウンドしてしまうらしい。

 このたび、物理的に十二指腸粘膜をフィルムのようなもので覆ってしまい、結果として十二指腸-空腸バイパスを作るに等しい新しい治療(十二指腸-空腸バイパスライナー)についてのメタ解析が米国糖尿病学会(ADA)の機関誌に掲載された。

 現在の糖尿病・肥満治療においては、心理的アプローチや面接技法を駆使した専門医の治療が求められることが多い。

 しかし、将来的には非専門医が食欲をアゴニストのような〕薬物で容易に管理できるようになったり、内視鏡医がこのようなライナーを留置することにより患者を薬物なしで容易に管理できるようになったりする日が訪れるのかもしれない。

 そんな期待(患者にとってはハッピーである)と不安(糖尿病専門医にとっては失職の危機である)の入り混じった気持ちでこの研究を紹介したい。

 研究のポイント1:十二指腸下行部から空腸にかけて食物が粘膜に触れずに通過

 肥満手術において、わが国で保険適用があるのは袖状胃切除術であるが、欧米ではRoux-en-Y胃バイパス術の方がよく選択されており、実際その方が治療効果が大きい可能性がある。

 バイパス術の方が効果が大きくなりえるメカニズムとしては、栄養素吸収の遅延・抑制や、回腸に由来し食欲を抑制する作用を持つ消化管ペプチドの分泌の亢進などが考えられている。

 しかし、バイパス術は、袖状胃切除術と同等かそれ以上に手技的に高度な技術を要し、侵襲も相応に大きい。

 そこで、バイパス術を模倣すべく考えられたのが、十二指腸-空腸バイパスライナーである。

 このバイパスライナーは長さ60㎝のポリマー素材でできた筒状の構造物で、十二指腸球部に引っかけるためのアンカー(錨)部分を近位端に持っている。

 内視鏡下でアンカー部分を球部に留置して筒状構造をその先で広げれば、十二指腸下行部から空腸にかけては食物が粘膜に触れずに通過するようになるのである。

 本研究は、このバイパスライナーを用いて糖尿病患者を対象に実施された臨床試験の結果をメタ解析して、HbA1cや体重に対する効果を検証したものである。

 研究のポイント2:バイパスライナーの試験14件を抽出

 本研究は、米ハーバード大学のグループ(ブリガム・ウィメンズ病院の消化器内科と内分泌内科のグループ)が共同で実施したメタ解析である。

 データベースとしてはMEDLINE、Embase、Web of Scienceの3種を対象とし、その開始から2017年6月1日までに報告された研究を、言語や研究デザインの制限をかけずに抽出した。

 検索用語は、"Endobarrier" "duodenal sleeve" "jejunal sleeve" "gastrointestinal liner" "bypass liner" "duodenal jejunal bypass sleeve" "GI dynamics sleeve" "GI dynamic"の8語であり、HbA1cや体重について検討している研究を検索した。

 その結果、一次検索で1,064件(MEDLINE 719件、Embase 134件、Web of Science 211件)がヒットし、重複しているものを除外すると917件が残った。

 抄録を見た上でバイパスライナーと関係のない論文、動物を対象とした論文、オリジナルデータのないレビュー論文を削除すると176件が残った。

 さらに、全文を読んだ上でバイパスライナーと関係のない論文、HbA1cも体重もアウトカムとしての報告がない論文などを除外すると、最終的に17件の論文が抽出された。

 17件の論文のうち、14件が肥満合併2型糖尿病患者のHbA1cに対する影響を報告しており、これを主たる解析に用いた(症例数412例)。

 14件のうち5件がランダム化比較試験(RCT)であり、9件は観察研究(前後比較試験)であった。

 残る3件の試験はバイパスライナー抜去後の血糖状況、体重、消化管ペプチドの変化についての報告をしているものであった。

 14件のメタ解析に際しては、RCTにおいてもバイパスライナー群での手技前後のアウトカムの変化を解析に用いた。

 一方、RCT5件だけを集めたメタ解析も行い(ただし、1件は対照群の糖尿病症例が1例のため除外)、その場合には対照群〔偽手技(内視鏡だけ実施してバイパスライナーを留置しない)群あるいは生活習慣指導群〕との比較データを解析に用いた。

 研究のポイント3:バイパスライナーはHbA1cを1.3%、体重を11.3kg改善

 14件の試験の412例中388例でバイパスライナーの留置に成功していた(成功率94.2%)。

 留置に失敗した理由はポリープ、鋭角過ぎる胃角部、短過ぎる球部、麻酔に伴う副作用などであった。これらの研究の概要を表1、2に示す。

 Betzelらの研究を除くと症例数はかなり少ない状況ではあるが、これらの研究をメタ解析してHbA1cに対する効果を示した。

 平均でバイパスライナー留置後8.4カ月の時点で、HbA1cは1.3%低下していた(P<0.0001)。

 また、空腹時血糖値は44.6mg/dL(P<0.0001)、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)は4.6(P<0.0001)改善していた。

 4件のRCTに限定しても、平均でバイパスライナーそうにゅう留置後4.5カ月の時点で、HbA1cは0.9%(P<0.0001)改善していた。

 バイパスライナーを抜去した後のフォローアップのデータをまとめると、HbA1cはベースラインより抜去後3カ月(2試験、46例)で2.2%(P<0.0001)、抜去後6カ月(4試験、120例)で0.9%(P<0.0001)低下していたが、抜去後12カ月(2試験、80例)では有意な低下は認められなかった。

 また、体重に対する影響を見ると(10試験、352例)、バイパスライナー留置後、平均で9.2カ月の時点で11.3kg低下していた(P<0.0001)。これをBMIで表現すると(9試験、340例)、4.1の改善であった(P<0.0001)。

 バイパスライナー抜去後のフォローアップのデータでは、ベースラインと比べ6カ月(3試験、104例)で7.1kg(P<0.0001)、12カ月(2試験、80例)で10.7kg(P<0.0001)の改善を維持していた。

 さらに、消化管ペプチドへの影響を検討している7件(124例)の試験からは、表3のような結果が得られた。総じて、空腹感をつくるグレリンが低下し、それ以外の満腹感にかかわる消化管ペプチドは上昇していたが、空腸を中心に分布するK細胞から分泌されるGIPは例外的に低下していた。

 なお、9試験(350例)がバイパスライナーの有害作用を報告しており、最も頻度の高いものは、腹痛、嘔気、嘔吐であった。これらはいずれもバイパスライナー留置後すぐに生じたという。

 重症の有害作用は350例中55例に生じており、消化管出血(16例)、低血糖発作(8例)、急性膵炎(6例)、バイパスライナーの位置異常(5例)、重症の腹痛(4例)、肝膿瘍(4例)、アンカー部分の破裂(4例)、バイパスライナーの閉塞(3例)などであった。

 私の考察:長期留置が必要か、重症有害作用も思ったより多い

 このバイパスライナーの有効性については、既にメタ解析がなされ(Diabetes Obes Metab 2016;18:300-305)、体重については有意差があったが、HbA1cについては有意差がないことが示されていた。

 本研究がバイパスライナーのHbA1cに対する有効性を確認した初めてのメタ解析となろう。

 あらためて結果を要約すると、バイパスライナーはHbA1cの1.3%もの改善に寄与していた。

 その一方で、抜去後6カ月まではHbA1cの改善効果を維持していたものの12カ月後にはベースライン(留置前)との有意差がなくなっていた。

 大変興味深いことに、抜去後12カ月後の時点で、10.7kgもの体重の有意な低下効果が残存していたにもかかわらず、HbA1cの改善は認められなかったのである。

 このことは、極端なエネルギー制限食を実施しても、罹病年数の長い糖尿病患者ではHbA1cの改善が得られないことがあるとの既報(関連記事「カロリー制限食の有効性と限界」)と通じるところがある。

 そして、長期にわたり糖尿病患者の血糖管理を改善するためにはバイパスライナーの長期の留置が必要であることを示唆するだろう。

 一方で、あまりに長期にバイパスライナーを留置することは、アンカー部分の破裂、バイパスライナーの位置異常、閉塞などの重症の有害作用につながるかもしれない。

 実際、350例中55例(15.7%)という有害作用の頻度は思ったよりも高い。

 以前紹介した内視鏡下十二指腸粘膜焼灼術では、手技に伴う一過性の腹痛が40例中8例(20.0%)に生じたものの、十二指腸狭窄のような問題は3例(7.5%)にしか生じていなかった(Diabetes Care 2016;39:2254-2261)。

 可逆的であるとはいえ、バイパスライナーにはまだ課題が残されているようである。

 バイパスライナーに長期の有効性と安全性の課題が残る限り、糖尿病専門医が職にあぶれる懸念は低そうである。
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